タイピングでは、1分間に何文字打てれば速いと言えるのか。自分のスピードは社会人の平均より速いのか遅いのか。タイピングゲームで高スコアを出せれば、それが本当に速さの証明になるのか‥‥。
速さを示す指標には WPM(1分間あたりの単語数)や KPM(打鍵数)などがあり、基準が統一されていない。更に日本語のローマ字入力では変換操作が必要になるため、英語の指標をそのまま当てはめるわけにもいかない。
これが、タイピングの速さの目安をわかりにくくしている要因だ。
この記事では WPMとKPMの違いを整理し、日本語タイピングに即した速さの基準も解説。国内外の大会記録や検定の基準、オフィスワークで求められるレベルも具体的な数字で示した。
1分間の練習問題で自分の速さも確認できるので、次に目指すべきレベルが見えてくるはずだ。
目次
タイピング日本一は1秒間25文字!
タイピングの練習を始めると気になるのが、世の中には、どれくらい速く打てる人がいるのかということ。
最近は実用目的のタイピングとは別に、eスポーツとしての「競技タイピング」が盛り上がりを見せていて、トーナメント形式で速さを競っている。
日本で最も有名なのは、約1万人が参加するRealforce Typing Championshipだ。短い文章10個を先に入力し終わった方が1ラウンドを獲得。決勝戦では、先に5ラウンドを取った方が勝ちとなる。
2025年の優勝者くわなさんは、決勝戦で瞬間スピード1,528 cpm(1分間に入力する文字数)を記録。これを1秒間に換算すると、なんと25文字も入力していることになる。
速さに関する用語3つ
Characters Per Minuteとは、1分あたりの入力文字数のこと。文字だけでなく、スペースも1文字分としてカウントする。
例えばHello Worldという単語をタイピングする場合、入力するキーはHelloが5文字、スペースが1つ、Worldが5文字なので、合計で11 cpmとなる。
Keystrokes Per Minuteとは、1分あたりのキー操作数。文字の他、シフトキーやバックスペースを押した数もカウントされる。Hello Worldをタイピングする場合にはシフトキーを2回押す必要があるので(大文字のHとWがあるので)、13 kpmとなる。
Words Per Minuteとは、英語タイピングにおいて、1分あたりの入力単語数を指す。ただし、厳密に言うと少し違う。わかりやすい例で説明しよう。
① I am good at piano
② You speak Japanese pretty well
①② は両方とも、単語数が5つだが、入力するキーの数は、①が18、②が30になる。
*アルファベットだけでなく、スペース、ピリオド、カンマなども1キーとして計算する
このように単語数は同じでも、入力するキーの数は大きく異なる場合がある。そこで、実際に入力した単語数とは関係なく、入力したキー5つ分で1単語と計算することになっている。
つまり、1分間に200キーを入力できた場合、40 wpmとなる。200 kpm = 40 wpm
覚えておいた方がいいのは、WPMは英語タイピングにおける速さの基準ということだ。
時代とともに変わるタイピング速度
現在のアメリカ人の平均タイピング速度は41 wpmで、正確率は92%という統計がある。男性の平均は44 wpm、女性は37 wpmで、男性の方がやや速い。入力作業が多い仕事では60 wpm以上が望ましいと言われている。
タイピストのステラ・パジュナスは、タイピングの速さが評判となり、IBMの電動タイプライターのプロモーション活動も手伝っていた女性。そんな彼女が1946年に達成したのが216 wpmという驚異的な記録だ。
ステラの時代に主流だったタイプライターはコンピュータに取って代わられ、実用的なタイピングの他に、競技タイピングというジャンルが出現し、アメリカでも熱戦が繰り広げられている。
アメリカで行われたタイピングのトーナメントUltimate Typing Championshipで、2020年に優勝したのは17歳のチャクことアンソニー・エルモリンだ。
この大会には、アメリカ、カナダ、イギリスなど世界7カ国から、タイピングファンがオンラインで参加した。
チャクは、予選で自己ベスト233 wpmを記録。本戦においては最高210 wpm、平均180 wpmの速さで優勝し、賞金5,000ドルを獲得した。

2020年以降は未開催のため
いまだ新しい記録は作られていない
eスポーツの大会のような派手さはないが、伝統的ある教育的な大会として知られるのがIntersteno World Championshipだ。隔年で開催されていて、2024年のポーランド大会では、29カ国から350人が参加した。
大会には様々な種目があるが、「一般的なタイピング速度(与えられた文章や単語をタイピングしていく速度)」を競うのは Text Productionという競技だ。
2024年のText Productionの優勝者は、トルコ人のエルディ・チッレル。入力速度は797.4 cpm、誤字率0.025 %という見事な数字だった。
日本語タイピングの基準
WPMは英語タイピングの基準だと説明したが、日本語タイピングの場合は、何が速さの基準になっているのだろうか。
タイピングの検定試験などでは、1分間で打てる文字数という表現がよく使われる。ここで言う「文字数」とは何か。
タイピング関連の主な検定試験では、試験時間内に入力できた「文字数」で点数が計算され、級や段などが認定される。この文字数とは、入力済み漢字と仮名の文字数を指す場合が多い。
例えば 卒業式に出席します という文を入力した場合、文字数は9文字になる。
入力済み漢字と仮名の文字数を基準にしている検定など
● BK(ビジネスキーボード)
● W検(日本語ワープロ検定)
● 毎パソ(毎日パソコン入力コンクール)
入力済みキーの数(打鍵数)を基準にしているサイト
● e-typing
このサイトでも、入力した文字の変換操作は行わないが、仮名の数ではなく、時間内に入力できたキーの数(打鍵数)でスコアを算出している。
検定等 | 速さの基準 | 変換 |
ビジネスキーボード | 漢字と仮名の数 | 有 |
日本語ワープロ検定 | 漢字と仮名の数 | 有 |
毎パソ | 漢字と仮名の数 | 有 |
e-typing | キーの数 | 無 |
卒業式に出席します
そつぎょうしきにしゅっせきします
sotugyousikinisyussekisimasu
漢字と仮名の数をカウントすると 9文字
キーの数(打鍵数) をカウントすると 28文字
このように試験やサイトによって基準が違う点を覚えておこう。
タイピングのレベル
日本語タイピングでは、1分間にどれくらい入力できればいいのか。目指すレベル別に文字数の目安を示した。ここで言う文字数とは、入力した漢字と仮名の合計数だ。ミスがあった場合は、入力した文字数からミスの分をマイナスする。
同じ文字数の文章であっても、漢字含有率(どれくらい漢字が含まれているか)によって、難易度に差が出るので、だいたいの目安としてほしい。
1分間に入力できる文字数とレベル | |
120 | タイピングの専門職を目指せるレベル |
100 | タイピングが速いと誰もが認めるレベル |
80 | 一般的なオフィスワークなら問題なくこなせるレベル |
60 | 仕事で使うなら、まず目指すべきレベル |
40 | 手書きと同程度~やや速いレベル |
20 | キーの配列を覚え、基本操作ができるレベル |
実際に「日本語ワープロ検定」の準1級で使われた問題を入力してみよう。1分間にミスなく何文字入力できるか。速さだけでなく、正確さも大切だ。
わたしは小さい頃から文房具に目がなく、必要と思う前に、色や形が気に入ったり、かわいいと感じたりすると、ついつい購入してしまう。そのため、机の引き出しはいつもさまざまな文房具であふれている。
その中でも、消しゴムを集めるのが最も好きで、たくさん持っていた。わたしが選ぶ基準は香りと色が好みかどうかだ。形はシンプルな長方形のものを選ぶことが多いが、それは紙のケースに包まれていることがほとんどだ。そのままの方が使いやすいのかもしれないが、幼少期のわたしは香りと色を存分に楽しむ目的で、購入したらすぐにその入れ物をはがしていた。そして、お気に入りの筆箱の中に大切にしまっておいたのだが、あるとき一緒に入れていた定規にべったりとくっついて色移りしてしまった。母親に泣き付くと、それは消しゴムを作るときに使われる薬剤が、他のプラスチック製品と接触すると、溶けて一体化してしまうことがあるのだと教えてくれた。
あの紙のケースには、こうした化学反応を防ぐための意味もあったのだろう。母親に教わってからは、小さくなった消しゴムに合わせて切り、最後まで覆ったまま筆箱に収めるように心掛けている。
第143回(令和7年7月)
日本語ワープロ検定試験
準1級問題(速度)より
過去の問題(PDF)をダウンロードしたい場合は、日本語ワープロ検定のページへ
自分で時間や文字数をカウントするのは面倒、という人は、「毎パソ」(毎日パソコン入力コンテスト)の体験版を利用してみよう。1分間の試験で、何文字入力できたかがわかるようになっている。毎パソ体験版

「毎パソアプリ サインイン」画面にアクセス→体験版へ→第1類 文字入力→第6部和文B「一般」→練習開始→次に進むとクリックしていくと、テストを体験できる。

試験結果の画面で一番上に表示される「正解数」というのが、1分間に正しく入力できた文字数だ。ミスが少ないと特別点が加算され、正解数+特別点が、毎パソでの得点となる。
タイピングの検定試験
タイピングの検定試験は2つあるが、それぞれ証明する能力が違う。
①タイピング技能だけをみる試験
ビジネスキーボード(BK)
②文書作成能力(Wordなど)の一部に、タイピング技能のテストが含まれている検定
日本語ワープロ検定試験(W検)
タイピングの速さと正確さだけを証明したいならビジネスキーボード(BK)、Wordなどの文書作成ソフトの技能を証明したいなら日本語ワープロ検定(W検)を選ぼう。
毎パソ(毎日パソコン入力コンクール)は、全国規模のタイピングコンクールだ。学校やパソコンスクールなどで団体参加する人も多い。
第25回6月大会(2025年6月開催)の結果を見ると、「和文タイピング・一般」ジャンルの1位は、1分間に288文字も打っている。高校生の1位はノーミスで、1分間に264文字だ。という感じで、上位者のレベルはとても高い。
コンクールではあるが、得点に応じて級と段が与えられる。しかし、パソコンスクールの講師なども参加し、上位にランキングされると氏名も発表されるので、資格取得が目的というよりは、あくまでもコンクールという位置づけだ。
もっと手軽にタイピングの速さを測定するなら、e-typingというサイトがおすすめだ。短文から長文まで、様々なテーマの練習問題があり、タイピングのレベルチェックができるようになっている。
ただしタイピング初心者の場合、このサイトにはまり過ぎて、基本練習がおろそかになってしまう人がいるので注意。
レベルチェックのテストを受けると、下のようなスコア表が表示される。

①上のスコア表を見ると入力文字数が315となっているが、アルファベットのキーをいくつ入力したかという数字なので、keystrokesと表現する方が正しいと思う。
②315 keystrokesを48秒07で入力したので、これを1分あたりの入力数に直すと、393.17 kpmとなる。表では393.17 wpmとなっているが、kpmで表現するのが正しい。
③スコアは、wpmに正解率の3乗をかけて算出されている。
393.17×97.46×97.46×97.46≒363
④e-typingのレベルは、EからAのようにアルファベットが付いているのだが、スコアが300を超えると、Thunder, Ninja, Cometなどユニークなネーミングが出現する。
検定試験のレベル比較
タイピングの検定試験やコンクールなどは、その試験内容が様々な点で異なっている。
変換操作を行うのか、行わないのか。ミスは厳しく減点されるのか、それほど減点されないのか。問題文に漢字がどれくらい含まれているのか、といった点だ。
また、試験によって到達目標も違うので、同じ1級でもレベルには大きな差がある。
下の表は、各テストの、日本語タイピングのレベルを比較したものだ。検定を受ける時には目安にしよう。

ビジネス キーボード |
日本語ワープロ 検定試験 |
毎パソ |
e-typing |
1 級 | 300 | ||
250 | |||
S | 230 | ||
A | 210 | ||
初段 | 準1級 | 160 | |
1級 | 170 | ||
B | 160 | ||
準1級 | 2級 | 150 | |
116 | |||
2級 | 準2級 | 115 | |
C | 105 | ||
準2級 | 3級 | 100 | |
4級 | 95 | ||
5級 | 85 | ||
6級 | 80 | ||
3級 | 7級 | 70 | |
8級 | 65 | ||
9級 | 60 | ||
4級 | 10級 | 55 |
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仕事で使える速さを目指すなら、ビジネスキーボードB判定、ワープロ検定準1級、毎パソ2級、e-typingならスコア150以上が目安になる。毎パソには色々なジャンルがあるが、今回比較したのは「1類・第6部 和文B」だ。
タイピングが速いというだけで就職が有利になることは稀なので、資格試験にチャレンジするなら、より幅広い技能や知識を問うものにチャレンジした方がいいと思う。
タイピングが速くなる方法
タイピングを練習し、ある程度の速さにはなったが、更なるスピードアップを目指したいという人は、下の5つをチェックしてみよう。
①とにかくタッチタイピング
タイピングの時「どうしても手元を見てしまう」というキーはないだろうか。例えば、ごくたまにしか打たないQを打つ時、チラッとキーボードを見たりしていないだろうか。
こういう不得意なキーが一つでもあると、スピードが一気に落ちてしまう。とにかくすべてのキーを絶対に見ないで打てるようにすること、タッチタイピング(ブラインドタッチ)を完璧にすることが、速度を上げる早道だ。
②数字や記号の練習もする
アルファベットの位置を覚えた段階で、地道な練習をやめ、すぐ実践に入ってしまう人が多い。最初に数字や記号の位置をしっかり覚えておかないと、後々の伸び悩みの原因になる。
③速く打てるローマ字を使う
例えば「中長期」をローマ字入力する場合
CHUUCHOKIよりTYUUTYOUKIの方が打ちやすい。
このように、同じ言葉を入力するのに、何種類かのローマ字が存在する場合があるので、いちばん簡単に入力できるローマ字を選ぶようにしよう。
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ローマ字変換表:タイピングが速くなるローマ字を使おう
④自分の指使いを決める
タイピングでは、この指でこのキーを打つ、ということが決められている。というか、推奨されている。
その決まりに沿って入力するのが一般的には効率的なのだが、世の中には手の大きな人も、小さな人もいるし、指の力も人それぞれだ。
決まりどおりだと打ちにくいキーがあったり、違う指の方が早く打てたり、という場合は、独自の指使いをしても問題ない。
かつてRealforce Typing Championshipで4回連続優勝し、タイピングの女王と呼ばれるmiriさんは、NやMを右手の親指で、Lを中指で打っているそうだ。こうした独自の指使いをわかりやすく表にしたものを運指表といい、タイピングの専門家や競技タイピングの上位入賞者などは、皆さん独自の運指表を作成している。
⑤自分に合ったキーボードを使う
打ちやすいキーボードを使うと、入力が速くなるだけでなく、長時間の利用でも疲れにくくなる。
どんなキーボードが合っているかは、実際に使ってみて、感触を確かめるしかない。キーの大きさ、沈み込み具合などを確認し、できれば自分にとって打ちにくい言葉を打ってみる。
更に、記号を打つ時に多用するシフトキー、変換で使うスペースキーが、丁度いい位置にあるかも確認しよう。
typing.comというアメリカの教育サイトが、タイピング速度と仕事時間の関連性に注目し、おもしろいデータをまとめている。
彼らはまず、ビジネスパーソンの昼休みの長さと、タイピング速度の関係を調べた。その結果、45分以上の昼休みを取った人のタイピング速度の平均は54.5 wpmだった。
これに対して、10分未満しか昼休みを取らなかった人たちのタイピング速度は、平均して49.3 wpmだった。
次に、仕事を家に持ち帰る頻度に注目。すると、仕事を1度も持ち帰らない人は、タイピング速度の平均が55.4 wpmだったのに対して、週に5日以上、持ち帰っている人たちは平均49.8 wpmだった。
ワークライフバランスの実現には、タイピング速度を上げることが必須のようだ。
by Mami Shimasaki